Great Escapes

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阿蘇への大脱走 Day4 - 2023/5/28

阿蘇自転車屋さんがくれた4日目。

走行ルート

内牧温泉→阿蘇パノラマライン→中岳火口→長寿ヶ丘公園(ラピュタの道入口)→二重の峠→熊本空港

距離約88km 獲得標高約1400m

穏やかに見えた最終日の朝

ここまで3日間、超絶贅沢な旅を続けてきたけど、あと阿蘇で是非とも走りたいところは、パノラマラインの北側、火口、ミルクロード、箱石峠あたり。朝起きて阿蘇山を見たら雲がかかってなかったので、とりあえずパノラマライン北側から初日時間切れで行けなかった中岳火口を目指す。

 

ところが、走り始めると正面の阿蘇山がどんどん雲に覆われて行くのが見え、中岳から高岳あたりは完全に雲に隠れた。根子岳のギザギザした特徴的な山頂部も全く見えなくなった。

 

阿蘇駅前にいたウソップ。ワンピース読んだことも見たこともないけど。

 

絶景と神秘の世界へ

パノラマライン北側は、阿蘇山に登る道で最も景色が良いと言われているらしい。実際に序盤数キロを過ぎると、すぐに牛の放牧地が大パノラマで開けた。他のルートよりも景色が開けるのが早いので、たぶん1番楽しいルート。元気に歩き回る牛が至近距離で見れる。

写真を見ればわかりますが、天気が悪いです。このあたりからパラパラと小雨に降られ始めました。しばらくは降ったり止んだりを繰り返す感じだったのでそのまま登り続けることに。

山の上の方、明らかに天気悪い。

霧に包まれた米塚とカルデラ盆地の風景は幻想的で美しい。景色のいい場所って、結局晴れでも曇でも雨でも景色良いんだよな。

 

高度を上げるにつれ霧が濃くなり(というか雲の中に入っていき)、小雨がやまなくなった。草千里ヶ浜は、初日見た景色が嘘のように霧で何も見えない。でもまあ山はこういうのが楽しくもあるんだけど。

小雨とは言え結構濡れてしまったので、草千里ヶ浜のレストハウスで少し休んで、山頂まで行くかどうか検討。SCWでは昼過ぎにかけて雲が薄くなっていく予報だったので、とりあえず山上広場までは行くことにした。

 

霧に包まれたミヤマキリシマも幻想的で良い。

 

とりあえず山上広場まで登ったけど、まだまだ霧は濃く、絶賛雲の中。

写真の左斜め奥に向かうのが火口へと続く公園道路なんだけど、あんまり霧が濃いし路面がウェットなので、行くかどうか少し悩む。ここまで来たら何としても火口まで行きたい(というか有料道路区間の激坂を登り切りたい)と思う反面、スリッピーな激坂は危ないからやめた方がいいのでは?ほら、4日目でもう疲れてきて足動かんし、雨面倒臭いし。と思う気持ちも。

 

しばらくぼんやりしてたら霧が少し晴れてきたので、ああ、これは行くしかないと確信して突撃。結論から言うと、行って良かった。

 

有料道路区間は周囲に草木が一切無い荒れ果てた大地で、その中で前方に薄ぼんやりと浮かぶ道路がめちゃくちゃ画になる。この構図、意外にもこの天候と相性が良く、なかなか見ることのできない神秘的な風景だった。

 

坂も特に後半はかなり頭がおかしい斜度で、「この斜度はおかしい」「どうしてもっとワインディングで緩くしなかったの」と思うのだけど、よく考えたら、斜度以前にこんな火山の噴火口に道を作ってること自体よっぽど狂ってるわけで、斜度18%程度の坂ぐらいで文句言ってる場合ではなかった。

路面が程よくガサガサだったのと、ダンシングのトルクのかけ方が上手くなったのか、濡れた路面にしては危な気なくスムーズに登れた。などと言うと余裕そうだけど、わたくしのガラスの心肺は割れそうだったことだけは書いておきます。

 

ゼェーゼェー言いながら休んでたら、警備のおっちゃんが「自転車はここへ立て掛けといたらええ」と何らかの施設の跡地的なものの壁を指してくれたので、お礼を言って自転車をなんかよくわらかない壁に立て掛けて、阿蘇の火口へ。

 

緊急避難用の壕的なものがたくさんあるけど、阿蘇山ぐらいの火山が本気で噴火したら、こんなもん何の役にも立たんだろうなあ。濃霧と相俟って、まるでディストピア

 

火口は曇りすぎてて何もよう見えんかったけど、それでも吹き出す噴煙は見えたし、落ちたらガチで死ぬ火口を目の前で見たのは貴重な体験だった。ここは天気良い日にまた絶対来ようと思った。

 

火口周辺を何だかんだ30分ぐらい散策してたけど、それでも雨は止まないし、何なら登って来た時より雨が強いし視界が悪い。待ってても良くなる気配を感じなかったので、鬼斜度の公園道路をダウンヒル。がっつり雨の中のダウンヒル、久々すぎて普通に怖かった。登ってきた時より気持ち霧も濃い。

 

登って来た道をそのまま北側へダウンヒル。雨のダウンヒルはかなり最悪ですが、牛の放牧地らへんまで下りたら雨は止んでいた。本当に山の頂上付近だけ雨が降っていたようで、周囲よりも高い山ならではの天気。

米塚の霧も晴れていた。

雨からの脱出、そしてチルアウト

下山したらあか牛丼(洋風ではなくノーマル)とあか牛の出汁が効いただご汁と高菜メンチでハイカロリーなランチ。

だご汁まで牛の出汁がガッツリ効いてて超うまい。あと高菜メンチがくっそうまい。日常的に高菜メンチ食いながらビール飲みたいから東京でも売ってくれ。

 

その後は、県道11号からミルクロードを走るか、箱石峠を越えて南阿蘇を流すかする予定だったけど、東に向かって走り始めてすぐ、宮地に着く前に雨が降り始めた。この雨が、満足した心と疲れた身体にしっとりと沁み込んで、「あ、もう満足しきったからこれで旅を終えよう」と思った。既に山の上で雨に降られて疲れてたし、昨日のメカトラもあったので、危ない橋は渡りたくなかった。そう思うと急に全身が脱力して、もう山には登らずに、盆地の中を流して国道57号で真っ直ぐ空港に戻ろうと思った。

 

・・・と思った矢先。もう坂は登らんと思いつつも、予定してたデカいクライムがなくなると、その辺の気になる脇道を登ってみたくなっちゃうのはもう病気か。内牧の外れにある「そらふねの展望台」に行ってみようかと道を登り始めたけど、子の権現+++みたいなレベルのクソ坂だった。コンクリ舗装で20%オーバーなぐらいの坂が「え?このぐらい普通ですが?」みたいな涼しい顔して1-2km続くみたいなヤバい道だった。

 

この斜度で軽トラ仕様の道幅なのに、怖いことに上からちょいちょい観光客のミニバンが降りてくるのが恐怖だった。子の権現というより三浦半島の武山みたいな印象で、あっという間に心が折れた。進むのがやっとなクソ坂登ってる時にビンディング外すの、すんげえ怖いんよ。というわけで途中で尻尾巻いて逃げました。写真はありません。

 

盆地の真ん中は通らずに、北側外輪山の縁を走ってたら、あのラピュタ道の麓の公園まで登る道があったので寄り道。ここは斜度が良心的で登りやすい。道の終点が近づくと、正面には度々崩落を繰り返したことが窺える険しい山肌が。

 

終点です。

公式に「ラピュタの道」と呼ばれるまでになった地形ゆえに廃道が決まったこの険しい林道には、もはや入ることが出来ない。周りに全く人の気配が無くて、ああ、ここはもう人の手が届かなくなりつつある世界なんだなあ、と感じる。

 

この舗装路の終点、なんかきれいな公園みたいな感じになっていて、時期が良ければ花を見に来る人が居るとか居ないとか。

整備された芝の広場にはバイクラックまであったけど、ここを訪れる自転車乗りはそう多くないんだろうな。

約束の地

来た道を引き返して、ゆるゆると盆地を走ってたら何やら晴れて天気が良くなってきた。曇り空に引っ張られてチルアウトしつつあった心身のテンションがアッパーに向き始める。で、赤水のあたりで北側に見えたこの景色。

ちょうどミルクロードの西側の終点にあたる二重の峠方面。この景色を見たらもう。そこまで登るしかないでしょう。というわけで57号を下るのはやめて、二重の峠へ。

 

くまもんに見えなくもない何か(左)と、多分くまもんなんだけど顔が怖すぎる何か(右)。

 

霧の中とか、心の機微をくすぐるような神秘的な風景が多かった4日目。それももちろん最高なんだけど。やっぱり自転車で坂を登るなら。抜けるような見晴らしの良い景色が見たいよなあ!!!!

最高です。

 

4daysの旅の最後に「ちょっとオマケ」みたいな感じでこんな景色見れるのヤバくないか?そういうところが(サイクリストにとっての)阿蘇の本質なんだと思った。これはもう約束の地。

そう、つまり、阿蘇は何処を走っても絶景ってこと。

そしてこれが旅の最後のハイライト。

 

The End of the Great Escape

県道339号の長ーーーーい下り坂を一気に下りて、大津の街を抜けて、西原の高台に登れば、あっという間に旅の終着地点、熊本空港。

 

重めのメカトラに遭遇しつつも、怪我も無く、人の優しさに助けられ、結果的に「最高だった」しか感想が浮かばなかった旅は、こうしてフィナーレを迎えたのでした。

 

馬刺し全然食い足りなかったから超食った。飛行機待ってる間に。

 

阿蘇ライドの3日目は人生で最も忘れられない日になった - 2023/5/27

自転車を始めて以来、おそらく最も忘れることが出来ない日となった阿蘇ライド3日目。

 

走行ルート

阿蘇3日目は、おおよそ2日目に走ったルートを逆に辿って阿蘇へ戻りつつ、寄り道したり2日目に走れてないところを走る、という欲深いルートだった。(予定では上の画像とはやや違うルートだった。)

 

やっぱり朝の温泉が最高に気持ち良い

朝の露天風呂がくっそ気持ちええええええええ!くてな。日差しで目が覚めるし、お湯で身体は解れるし。

※絶対に貸し切りになる仕組みなので写真撮っても大丈夫・・・だと思う。

 

絶景ロードは逆向きに走っても絶景

絶景ロードは逆向きでも絶景やろ。何なら両方向に走ってこそ魅力の全部を知ることが出来る。というのが私が過去に西伊豆を走って感じた真理(誇張)なんですが、じゃあ、やまなみハイウェイも当然そうじゃろ。ということで逆向きに走ります。

 

由布院盆地の北側を通る国道210号は、昨日車が多くて道が狭かったのが非常に印象的だった。時間帯も16時前でクルマが多そうな時間だったけど、それにしても水分峠の日田側からくるクルマが多かったし大型も多かった。なのでできるなら避けたい。というわけで、盆地の南の縁を通り、南由布から県道11号で水分峠まで登るルートを選択。

 

由布院市街地を散策

それはそうとして、せっかく有名な温泉地に来たので街中を少し散策。

 

由布院駅。綺麗に改築されたレトロモダンな駅舎。駅舎からホームが直結で改札機も何も無いところがグッと来る。

 

駅舎からちょうど反対側を向くと、由布岳を背景にレトロモダンな温泉街が見える「THE・由布院」な画。

 

朝の山の景色は空気が澄んでいてとても綺麗。

 

朝からのんびりと由布院の風景を堪能したら、やまなみハイウェイへ向けて県道11号を登り始めます。

 

逆走のやまなみハイウェイ

由布から水分峠までの県道11号は、地図で見る限り何やらものすごいワインディングになっているので、クソ激坂か打ち捨てられた古道のどちらかだと思ってましたが、後者でした。道幅とかはほぼ林道の規格で、クルマは皆無。前半は谷筋の集落沿いで、後半半分は尾根道だったので、たぶんかつては山を越える街道だったのだろうと思います。斜度も緩かったので古い道だと思う。現在の国道が出来て、街道としては打ち捨てられたのだろうと思います。自転車乗りとしては、実質林道としてでも今なお整備されていてロードバイクで安全に走れる、こういう道は本当に最高。

 

県道11号は水分峠の500mほど手前で国道と合流し、水分峠で日田方面へ向かう国道とやまなみハイウェイ(県道11号)が分岐します。実際この国道は朝でも交通量が多かったので、回避して正解。

 

水分峠

 

水分峠を過ぎてからも蛇越展望台付近までかなりガッツリ登る。景色がさほど良くないので普通に山奥の登り坂という印象。飯田高原までアップダウンが続くけど景色は開けない。でも斜度が緩やかで空気がおいしくて非常に走りやすい。もちろん舗装もめちゃくちゃ良いので、景色が開けなくても快走路という印象。

 

迫力のやまなみハイウェイ

飯田高原まで来るとようやく景色が開けて絶景ロードになるけど、そこまでがわりと長い印象で、すぐに絶景が始まる阿蘇側とは対照的。走り始めの印象としてどちらが良いかは、好みと走力によるかな。

 

飯田高原は大分側から見るとものすごく景色が良い。昨日は阿蘇側~長者原で満足しきってしまったので飯田高原はほぼ素通りだったけど、由布院から景色の開けない道を長く走ってきてからのこの景色はかなり感動する。

 

飯田高原長者原は、九重連山がどんどん目の前に迫ってきて迫力が凄い。特に長者原へ出た瞬間、聳える山々が目の前に突然現れるのがものすごい迫力で、思わず声が出る。この九重連山の迫力は阿蘇から走ってもあまり感じられないので、やっぱり絶景ロードは両方向から走るべき。

 

時間的にいい感じなので長者原でランチ。レストハウスのオムライス。

 

これから九重連山の牧ノ戸峠を超えて阿蘇へ向かうんだけど、山の向こう側からものすごい勢いで雲が流れ落ちて来るのが気になった。北側は晴天だけど、峠越えた南側は天気が悪いかもしれない。

いや、これ絶対山の向こう側天気悪いやん?

 

牧ノ戸峠への登り坂は、北側も南側もほとんど同じ印象だった。若干北側の方が楽かな?と思ったけど、どっちも程良いヒルクライム。飛ばしたい人にはトレーニングにちょうどいい斜度と距離だし、私みたいなゆるポタ勢にはのんびり登るのにちょうど良い坂。

 

悪天のやまなみハイウェイ

峠を越えてダウンヒルを始めると空が急に暗くなった。やっぱり南側から山に雲がぶつかっている。暗いし寒い。途中、南側に景色が開ける展望台があって、天気が良いと久住高原から阿蘇まで一望出来るんだけど、ひたすらどんよりと低い雲が立ち込めていて、空が暗かった。特に見える阿蘇も雲に覆われている。

 

瀬の本高原まで下りると雨がポツポツとアイウェアを叩き始めた。天気が良ければのんびり休憩したかったけど雨なのでさっさと通過。瀬の本高原からもしばらくダウンヒルが続く。阿蘇に向かってかなりの下り坂で、一気に阿蘇が近づく。夢広場まで戻る頃には雨は止んでいて、なんなら若干日が射すぐらいで、天気は南に行くにつれ回復傾向。

 

逆転優勝のやまなみハイウェイ

正面の阿蘇山は比較的明るくきれいに見えていた。一方、振り返ると九重連山は山の大半が暗い雲に覆われていて、空の色が全然違った。つまり、やっぱり南寄りの風が九重連山にぶつかって、山の南側〜頂上付近で上昇気流になって天気が悪くなっていたということ。

 

さらに阿蘇へ近づくと阿蘇側の天気はどんどん良くなって行って、阿蘇山にもほとんど雲がかかっていなかった。時間も十分余裕があったので、ミルクロードに入って、そのままミルクロードの絶景にニヤニヤしながら東端の二重の峠を目指そうと走り出した矢先のこと。

 

メカトラはいつだって突然に

そいつはいつだって突然やってくる。

 

短い登り返しでトルクをかけた瞬間、「ガキッ」と嫌な音がしてペダルが踏めなくなった。確認するとスポークが1本の根本からポッキリ折れていた。(後で知るけど実際はニップル破損)

 

これはもう自走不能。走るのを断念して、これからどうするか考える。まずは近くに自転車屋があれば直してもらえるかもしれないので、付近の自転車屋を調べる。近く(言うほど近くない)に出張修理サービスをやっている自転車屋があったので電話して相談。場所がお店から遠く普段出張しない場所で、スポークの予備も在庫が無いとのこと。それでもなんと車を出して私と自転車をピックアップし、阿蘇の別の店かその日の宿まで運んでくれることに。

 

待ってる間に壊れた箇所を撮影しておくなど。

 

待つこと約1時間。自転車屋の感じのいい兄ちゃん(店長)が到着。見てもらうと、スポークは折れておらずニップルの破損と判明。念のため持参したと言う捨てホイールのニップルと工具で、なんとその場で直してくれて自走可能に。

 

何度もお礼を言って超絶イケメンの自転車屋さんを見送った。

 

この世で最も鮮やかな景色って何だと思う?

自走不能から奇跡(というか自転車屋さんの優しさと力による)の復旧を遂げ、自転車屋さんに教えてもらった道を走ったら、そこはとんでもない絶景ロードだった。

もはや阿蘇には雲がかかっていない。

ミルクロードから南へ張り出した天空の道を走る。(大観峰と似たような地形)

路面はガレていて、人も車も全く通らない。

 

台地の終端から盆地まで崖のように一気に落ちる地形。


あまりの絶景と、その中を自転車で走れる喜びが全身を駆け巡る。自転車で走れることがこんなにも尊いものか。


自宅から900km離れた旅先の山の上で自走不能になるという事態から、まさかの大逆転をくれた南阿蘇自転車屋さんのことは、たぶん一生忘れない。

 

その日の宿で喰った飯と酒は人生で1番うまかった。

 

阿蘇への大脱走 Day2 - 2023/5/26

せっかくここまで来たら、やまなみハイウェイ、走りたくない?そしてその先にあるはずの秘密の絶景を、どうしてもこの目で見てみたくない?というわけで阿蘇を飛び出して由布院を目指す2日目。

走行ルート

 

自転車旅でこそ入るべき朝の温泉

6時に起きて朝風呂。最近温泉に泊まると朝軽く温泉につかることが多いんだけど、これがかなり良い。起き抜けに入ると血が巡って目が覚める。身体も解れる。温泉は最強のウォームアップ。

 

約束された絶景

まず目指すのは、阿蘇を代表する絶景スポット大観峰。普通に有名な観光スポットらしいので平日の朝に行くのが吉と読んで、内牧から最短で大観峰を目指せる国道212号をクライム。ミルクロードに上がる道としては、やまなみハイウェイの県道11号か、西側の赤水から二重の峠に登る県道が自転車乗りにはメジャーな気がするけど、最短で大観峰を目指すのを優先。結果は大正解。朝早いのもあってか、言うほど交通量も多くなくて普通に走りやすかった。

前半2/3ぐらいは林の中のワインディングを黙々と登るオーソドックスなヒルクライムだけど、後半は景色が開ける。

後方にはさっきまでいた内牧などカルデラ内の町が眼下に広がる。

 

前を向けば壮大に広がる牧草地。外輪山のピークにあるミルクロードをやや見上げる視点が格好よくて、そこを走る車も小さく見える。すり鉢状に落ち窪むカルデラ盆地の険しい地形が理解できるパノラマ。

やっぱり阿蘇の景色は狂ってるなあ、と思った。

 

国道212号を登り切ってミルクロードに入ると、左手には緩斜面の牧草地が広がり、遠くに九重連山を望む絶景。右手には阿蘇山。正面と後ろは永遠に続くようなスカイライン。約束された絶景。スケールが大きすぎる。最高すぎて笑いと独り言が止まらない。

 

 

 

そしてこの旅のハイライトの1つ、阿蘇大観峰

大観峰は北側外輪山で1番標高が高い場所(たぶん)。ミルクロードから脇道に逸れて、三角形に張り出した台地の上を少し進むとレストハウスのある駐車場につく。外輪山からカルデラに張り出した台地なので360度のパノラマ。アドレナリンが止まらなくて、よくわらないテンションになってた。駐車場から先、大観峰の先端へは自転車も進入禁止の遊歩道なので、レストハウス脇のバイクラックに自転車を置いて散策する。山と草原を撫でる冷涼な風が吹き抜ける爽快さ。天気にも恵まれた。語彙が無くなる。

 

欲張り自転車乗りは阿蘇に留まらない

ミルクロードを少しだけ東に進むと、若干周囲より低くなった谷筋に落ちてやまなみハイウェイと合流し、しばらく牧草地に囲まれた谷筋の道を走る。

 

そこから少しだけグイッと登ると台地の上に戻る。ここが360度パノラマの超気持ち良いエリアで、北には九重連山、南には阿蘇山が見渡せる絶景ポイント。目印は「夢広場」というレストハウスみたいな場所。ここは本当に景色が良くて、やまなみハイウェイでも指折りの絶景ポイントだと思う。

 

しばらく開けた景色の中を九重連山めがけて走り、産山村南小国町へ分岐する十字路を過ぎると、森の中に入り登り基調に変化。次に景色が開けるのは瀬の本高原。眼前に九重連山が迫る。標高が900m以上あるので、吹き抜ける風が涼しくてとても気持ち良い。

 

ここで昼メシ。人気があるという郷土料理屋で高菜飯とだご汁などを食べる。だご汁は野菜がたくさん入ってて栄養満点。程良い塩気に、味噌と野菜の甘みが染み渡る。テラス席で気持ち良い風を浴びながらの気持ち良い食事。贅沢な時間である。

 

瀬の本高原を過ぎると、やまなみハイウェイの最高標高地点、牧ノ戸峠への本格的なクライムが始まる。登り始めるとすぐに大分県に突入。尾根でも谷でもない、何とも変なところに県境がある。


全体的に斜度はほどほどで、瀬の本から峠まで標高差も400m弱。標高が高く、かなりカラッとして涼しいので、かなりスムーズに登れた。途中には瀬の本高原阿蘇を見渡せる展望スポットもある。

 

牧ノ戸峠は周辺の山々への登山口、ハイキングの拠点になっている場所で、広めの駐車場に車がたくさん。レストハウスもあって、おにぎり、いきなり団子、ソフトクリームなどが食べられる。トイレも完備。鞍部なので展望はないけど、空が広く明るくて雰囲気はとても良い。登り切った達成感もある。

 

この牧ノ戸峠で、木曜の朝に空港で会って「どっかで会うかもしれないですねー」などと話した兄ちゃんと奇跡の再会。なんと昨晩泊まってたエリアが同じ、昨日と今日の走行ルートもほぼ同じ、そして今日のゴールエリアも同じというすごい偶然。お互いの旅を讃えて別れる。

 

牧ノ戸峠を越えれば、あとは由布院までほぼ下り。北側へのダウンヒルは舗装も線形も良くて、初見でもかなり爽快に飛ばせる良い道。5kmほど下ると長者原という湿原のような場所に着く。ここから振り返って見る九重連山がド迫力の絶景。

 

その先の飯田高原(はんだこうげん、と読む。いいだじゃねえのかよ!)も景色が開けていて、南に九重連山がよく見える。

 

景色的にはこの辺りまでがピークかな、という印象。この先は由布院まで森の中を走る時間が長く、景色はやや地味になる。

 

だいぶ由布院に近づいた所にある蛇越展望台からは、目の前に由布院の盆地と由布岳が綺麗に見えるなかなかの展望スポット。気を付けてないと地味過ぎて素通りしそうな場所。

 

そこからは由布院まで一気にダウンヒル。久留米・日田方面からの国道が合流する水分峠からは交通量が激増。道も狭いのでかなり走りにくくなる。

 

阿蘇と九重とやまなみハイウェイのその先

下り切れば由布院の中心街に辿り着くので、そこで本日のゴール・・・ではありません。一度由布院の市街地を通り過ぎて、そのまま別府方面に抜ける県道へ向かいます。どこぞのスカイラインのように開けた景色の中をワインディングする気持ちの良い道をグイグイ登っていきます。

時刻は夕方4時をまわったぐらいですが、雲がかかったり青空が見えたり、目まぐるしく空の色が、もとい文字通り「空模様」が変わる。「そこ」に着いた時、由布岳が厚い雲に隠れていないことを祈りながら、グイグイと登っていく。


5km/300mほど登ると右手に山に沿って細い林道が分岐していて、その林道をさらにグイグイ登っていくと、「そこ」に辿り着く。

「そこ」には、ただ目の前に広がる絶景あった。他には何も無かった。何一つも無かった。

目の前にド迫力の由布岳が迫り、その下には今登ってきたスカイラインのような道がくっきりと見える。左手には由布院の市街をも臨む。

タイミングよく、山頂付近の雲もほとんど消えていた。ああ、これこそが、まさに私が由布院まで来た理由なのだ。

 

阿蘇の「約束された絶景」とはまた何かが違う、この風景。大観峰もミルクロードも最高だったけど、それ以上に、何て言うか、今日は本当にこのために走って来たと心から思える景色。あるいは、この喜びのために生きている、と心の底からエネルギーが湧いてくるような力強い景色。

 

ところで一緒に写ってる黄色いバイクは別に同行者とかではなく、そこでたまたま会った近所のおっちゃんの。林道を登ってたらチネリのピストバイク(!)に乗ったおっちゃんに抜かされて、絶景スポットで写真撮りながら雑談してた。

 

最高の絶景を楽しんだ後は、宿でひたすら寛いだ。町の中心からちょっと外れたところにある家族経営の小さい宿で、民宿とか田舎の親戚の家みたいな雰囲気で本当に居心地が良かった。

 

温泉とうまい酒と飯で一日を〆る。

 

阿蘇への大脱走 - 2023/5/25

Introduction and great escape

嫁さんがライブ遠征で4日間家を空けるというので、じゃあ私も4日間どこか走りに行こう、ということで、熊本へ飛びました。

朝一番のANAで熊本へ。コードシェアで中身はソラシドエアでした。

熊本空港着。

到着から輪行解除して走り出すまで約1時間。なんだかんだで10時過ぎに熊本空港を出発。輪行とか空港の話は最後にまとめてしようと思います。

初日の走行ルート。

 

阿蘇に入る前から絶景の俵山峠

空港から阿蘇へ入るルートは、私が調べた限りでは4通りあり、おそらく自転車乗りには最もメジャーと思われる俵山峠を越えるルートを選択。空港をスタートしたら県道28号をひたすら東に向います。登り基調の道を10kmほど走ると、長いトンネルを抜ける新道と、峠を越える旧道の分岐点に到着。旧道に入れば、もう絶景ロードがスタート。

まだ外輪山を登り始めたばかり。阿蘇に辿り着いてすらいないのに、既にクライマックスのような絶景が続くので脳がバグる。クルマはみんな新道を走るので、交通量が皆無に等しく、非常に走りやすい。斜度も身体に優しいので、心ゆくまで絶景を楽しみながら走ることが出来ます。

風車がいい感じ。

景色が良すぎて「あ、もう終わりなの?」という感じでピークを越えると、目の前にド迫力の阿蘇山カルデラ盆地が。

阿蘇に入る前から絶景な上に、峠を越えて阿蘇に入った瞬間目に飛び込んでくる景色が完璧。オープニングからこんなにきれいなシナリオが用意されているなんて、出来過ぎじゃないか。

ダウンヒルも絶景。

 

あか牛食べる

ダウンヒルしてカルデラ内に入るとちょうどお昼時だったので、事前にリサーチしてチェックしていたカフェレストランへ。

マスター夫妻としばし雑談。阿蘇山の上の方は、ちょうど今ミヤマキリシマというツツジの一種の花が見頃だという。パノラマラインを登るか、東の箱石峠へ行くか迷ってたんだけど、この話を聞いてとりあえずパノラマラインを登ることに決める。

そして洋風あか牛丼なるものを注文。

おしゃれすぎる。

赤ワインとバルサミコのソースに、ポーチドエッグ。肉はめちゃくちゃ柔らかい。付け合せの野菜も新鮮で瑞々しくて美味しい。トマトなどはピクルス。スープはゴボウのポタージュ。おしゃれすぎるし美味しすぎました。

食後にアイスコーヒー。

大満足したところで早速阿蘇山を目指します。

このあたりは阿蘇山の南側のカルデラ盆地で、広い市街地がある北側と比べると長閑で静か。外輪山の縁を東に向かって走ると、左手に阿蘇山がきれいに見える絶景ロードが永遠に続く。

おしゃれカフェから1時間ほど走って、パノラマラインの南側入口に到着。コンビニで水分を補給したらクライム開始。

サントリーの天然水が「阿蘇

阿蘇パノラマライン(南側)

前半は林の中を比較的緩やかの勾配で登るオーソドックスなヒルクライムの印象。交通量が少ないので気持ち良く走れる。

こんな感じでたまに景色が開ける。

半分弱ぐらい登ると、林が途切れて景色が開け始める。

阿蘇を見下ろす展望台。

このあたりは少し勾配がキツくなり、それを過ぎると赤牛が放牧されてる牧場エリアに。赤というか薄い茶色の毛並みがきれい。ゴメン、お前の仲間さっき食ったわ。

以降の道は比較的景色の変化が大きい。草原と荒々しい山肌が入り交じる中をややキツめの斜度で登っていくので、活火山のダイナミックさを肌で感じられる。

長閑なだけでなく、なんとなく荒々しさを感じるのが南側の特徴。


1ヶ所だけ1kmぐらいの長いトンネルがあるんだけど、クルマは少ないしトンネル内の斜度が緩いので、特に走りにくいということはない。ただ道幅は狭いので前後ライト点灯必須。

トンネルを抜けると、景色はますます荒涼としてくる。枯れかけた川の水は茶色く濁っていて、立ち枯れた木も多い。ガチの活火山の風景。


ヤマキリシマと草千里ヶ浜

そのままどんどん火口に向かって景色が荒涼としていくと思いきや、標高1000m超えたぐらいから、ちらほらとピンクの小さい花が咲いているのが目立つようになる。

これがカフェのマスターが教えてくれたミヤマキリシマ。漢字で書くと深山霧島。高度を上げれば上げるほど花が増えていき、荒涼とした火山とのミスマッチがすごい。桃源郷のよう。

噴煙を上げる中岳をバックに咲き乱れるミヤマキリシマ。

見とれていたら火口まで登る時間がなくなったので、西側へダウンヒル。と、その前に、草千里ヶ浜でしばし絶景を楽しみながら休憩。

スケールがでかすぎる。

高台に展望台があって、草千里ヶ浜(だだっぴろい草原。噴火口跡)とその後ろの烏帽子岳、奥には噴煙を上げる中岳、その手前には咲き乱れるミヤマキリシマが一望できる。いつまでも見ていられる風景。

初日のフィナーレへ

宿が阿蘇山の北西側にあるので、西側へダウンヒル。西側は南側のような荒々しい風景は少なく、牧草地が広がる区間が長い。爽快なダウンヒルを楽しめる。

西側の道のすぐ側にある米塚。古い噴火口跡らしい。きれいな形。

ダウンヒルを終えたら本日の宿泊地、内牧温泉を目指して、阿蘇山北側のカルデラ盆地を北東に進む。北側は南側と違って平地がとにかく広い。水田の中を、左手に外輪山、右手に阿蘇山を見ながらゆっくりと走る。

カルデラなう。

宿に到着。

私は欲張りなので、フレキシビリティを犠牲にしても2食付きの温泉宿に泊まりたい。温泉つかって身体をほぐして、酒飲んでメシ食って、そしたらもう宿から一歩も出たくない。

そして夕食

焼肉メインのビュッフェ形式の夕食で、どう考えても今日消費したカロリーより遥かに多いカロリーを取って就寝。

奥日光の絶景を楽しみ尽くす - 晩秋の奥利根・奥日光ライド day2- 2022/11/6

中禅寺湖の秘密の砂浜


晩秋の奥利根・奥日光ライド2日目は、紅葉よりも絶景が引き立つライドとなりました。

 

水上駅→一ノ倉沢→矢木沢ダム→坤六峠→片品(泊)→金精峠→千手ヶ浜→中禅寺湖スカイライン東武日光駅
1日目: 走行距離90km 獲得標高2100m
2日目: 走行距離100km 獲得標高1870m


早朝ピクニック(寒い)

タイムスケジュール的に宿でゆっくり朝食を摂る時間が無さそうだったので、おにぎり弁当を作ってもらって朝7時前に宿を出発。近くの道の駅で日向ぼっこしながらおにぎり弁当でピクニックと洒落込む。

 

朝から山でピクニックめっちゃ楽しいしめっちゃご飯うまいけど死ぬほど寒かった。特に指が。足湯があったので手を突っ込んで指先をあっためて、ナイズビューを写真に収めたら出発。

 

金精峠への苦行クライム

日光方面へ向かう国道120号を登り始める。片品から約24km、獲得標高約1100mのスケールでかい登り。村の中心を抜けると、国道120号は深い沢の底を這うように走り始める。谷が深く、朝7時8時ぐらいじゃ全く日が差さなくて本当に寒い。

 

グローブが摩耗しているせいで特に指先が冷たい。斜度が緩いのでただ走ってるだけじゃ指先まで血が回らない。運動強度上げたいけど、上げると足が死ぬので、緩い強度のままひたすら寒さに耐えるクライムを続けるしかなかった。たまに沿道に見える紅葉だけがモチベーション。

 

少しずつ斜度が上がって指先も温まってはきたものの、寒さで足がほぐれず辛い登りが続く。眺望も開けない。思えばこの区間がこの日一番辛かった。

 

ほぼ中間地点にあたる丸沼高原で中休憩。日光白根山ロープウェイの山麓側駅になっておりスキー場もある場所で、植えてある紅葉がきれいに赤くなっていた。片品から金精峠のちょうど中間地点にあるので休憩におすすめ。


丸沼高原を過ぎてしばらく登り、標高1500mほどに達すると、ようやく高度感が出てきて、少しずつ眺望も開けてきた。


気温も少し上がり、身体もほぐれてきて、苦行感が薄くなる。やっと登りが楽しくなってきた頃に菅沼に到着。時刻は午前10時過ぎ。ようやく日差しが暖かく感じるようになってきた。

 

菅沼付近は2kmほど平坦な道になっていて、茶屋やトイレ、自販機もあるので、補給・休憩に良いです。雰囲気も良いので個人的には丸沼のレストハウスよりこっちの方が好きかな。

 

菅沼の茶屋から金精峠までは残り約2kmの登り。相変わらず眺望は開けないけど、斜度もさほどキツくなく、高度感が凄いのでテンポよく登りきれた。片品から約3時間半の苦行がようやく終わった。全然景色とか良くなかったけど、それでもロードバイクで走る北関東の最高峰と言って差し支えない金精峠を登りきった達成感はひとしお。

 

金精峠日光側の絶景

トップは峠をぶち抜くトンネルになっているので、走り抜けて日光側に出ると、3時間半の苦行の辛さを一気に吹き飛ばす絶景が目に飛び込んできた。

美しい山容が堂々たる存在感を示す奥日光のシンボル・男体山と、手前には中禅寺湖の上流にあたる湯ノ湖。その間の平原には、まだわずかに残った紅葉が大地を黄色く染め上げていた。3時間半の苦行を全部チャラにして有り余るほどの絶景。金精峠を登りきって本当に良かった。

 

金精峠から湯元までは、ほぼ常時景色が開けていて、まるで空を滑りながら湯ノ湖と男体山に飛び込んでいくようなダウンヒル。めちゃくちゃ気持ち良い。立ち止まって振り返ると、今にも崩れそうな金精山が眼前に迫る。今走ってきた道もよく見える。これは登っても絶対に楽しい道だな・・・。

ただし交通量が多く、舗装はところどころ剥がれているので、あんまり景色に見とれてるとガレにハマってコケて車に轢かれて死にます。あと斜度が結構キツかった。


戦場ヶ原の圧倒的なスケール感

急斜面のダウンヒルを終えてしばらく緩やかな下りを快走すると、周囲の林が消えて高木の生えていない湿原が周囲に広がり始めた。道路の左右に広がる湿原のあまりの広さに言葉を失う。とにかく広い。超パノラマで、この壮大さは全く写真に収まらず、スケールの大きさに圧倒された。これはまじで日光ナメてました。本当に申し訳ございませんでした。

 

この2日間、宿の夕食を除くとおにぎりぐらいしかまともに食べてなかったのと、金精峠の登りと下りで身体がすっかり冷えていたので、三本松の茶屋で温かい蕎麦を食った。これが後々効いてきて、やっぱ寒い時期の昼は屋内であったかいもの食べないとダメなんだと悟った。

 

中禅寺湖の秘密の砂浜

戦場ヶ原を抜けて再び林の中を少し進むと、右手に仰々しい通行禁止のゲートがある。日光市道1002号線。中禅寺湖の秘密の砂浜、千手ヶ浜へ至る道である。環境保護のため一般車両通行禁止で、自転車は排気ガスを出さないので辛うじて通行が許可されている。

 

ゲートの脇を抜けて日光市道1002号線に入ると、周囲には既に葉の落ちた木と足元に笹が茂る林がどこまでも広がっていた。時折沢が近付く場所で水音が聞こえる以外には何の音もしない。秘密の道。路面こそアスファルト舗装でたまにバスが通ったりもするけど、ここは基本的に人間の領域じゃないんだな、ということを強く感じた。

 

途中に小田代原という湿原があり、このあたりまではごくまばらにハイカーがいたけど、その先はほとんど人の気配が無かった。

 

3kmほど緩やかに登り、切通しを超えると下り坂になる。そのあたりからますます人の気配は消え失せる、木立から差し込む日差し、風にゆれる笹の音、流れる沢の水音。それ以外の音が何もしない。


時折熊出没の注意を促す看板があり、沿道の木の中には明らかに熊が皮を剥いだと思われるものがいくつもある。本当に熊が出るんじゃないかと思う。実際にエンカウントしたのは猿だけだったけど。そんな道を5kmほど進むと舗装路が終わり、突然目の前に海と見まごうような静かな砂浜が現れた。ここは中禅寺湖の最奥。


浜に波が打ち付ける音だけが響いていた。周囲が森に囲まれていて、国道からも離れているので、車の走行音などは微塵も聞こえない。観光客が溢れる秋の日光とは思えない静けさ。人の世界から隔絶した秘密の砂浜。

 

中禅寺湖スカイライン

千手ヶ浜でしばらくぼんやりして、来た道を9km戻って国道に合流する。竜頭の滝の脇を一気に下って中禅寺湖の北岸に出る。


ここまで来るとさすがに車が多い。道も狭く舗装もあまりきれいではないので走りにくかった。中禅寺湖のいわゆる湖尻にあたる二荒山神社の大鳥居や華厳の滝周辺は観光客で溢れかえっていた。

 

そこから南へ右折して、県道250号、中禅寺湖スカイラインへ向かう。湖岸の民宿や飲食店、その先の歌ヶ浜駐車場と立木観音までは比較的車や観光客が多いけど、そこ過ぎて中禅寺湖スカイラインの登り坂が始まる頃には歩行者は皆無になり、交通量も激減する。

 

中禅寺湖スカイラインは、中禅寺湖の南東側に聳える崖のような山肌をワインディングで無理矢理登っていくような道で、紅葉もほぼ終わりを迎えた今の季節、走ってると眼前の上方にこれから走る道がよく見える。私はそういうの大好きで、これからあそこまで行くのかと思うと楽しくなるタイプのヒューマンなので最高の道でしかないけど、そういうの苦手で心折れちゃうタイプのヒューマンにはキツい道だと思う。ただし走った分だけどんどん中禅寺湖が眼下に遠ざかっていくのだけは誰でも楽しめると思う。

 

無限に繰り返すワインディングをこなして、切通しを超えると、中禅寺湖とは逆の南東側の山々が視界に広がる。これがどこまでも山しか見えない上、そのほぼ全てが今自分がいる場所より低いので最高に気持ち良い。ああ、これこれ。この感覚、まさに"スカイライン"だな。

 

暫く進むと再び中禅寺湖側が見渡せる展望ポイントに到着する。駐車場が広く取ってあるわりにガラガラだった。ここから見下ろす中禅寺湖、正面に間近に見える男体山、この景色は中禅寺湖スカイラインのハイライト。

 

展望駐車場を過ぎると再び道は山の南東側に入り中禅寺湖側が見えなくなるものの、この時点で既に南東側にこの地点より標高の高い山は無く、それでもなお坂を登っていくこの道は、まるで空に向かって突き刺さっていくような感覚になる。そうそう、これが"スカイライン"だよね。2日間、最高の紅葉と絶景にまみれてきた挙げ句、夕方になって空に突き刺さるような道を走れるこの幸せ。


道の終点はこれまた無駄に広い駐車場になっていて、南西側の足尾の山々も見渡せた。この日は午後から低い雲が垂れ込めていたけど、隙間から射す陽光がきれいに写真に写った。中禅寺湖スカイライン、本当に最高の道。

 

渋滞のいろは坂

中禅寺湖スカイラインは終点の半月山駐車場でどん詰まりなのでそのまま折り返し、夕暮れの中禅寺湖の景色を楽しみつついろは坂ダウンヒルへ向かう。

 

予想通りいろは坂は渋滞していたものの、道幅が広く途中で止まって写真撮ったりするのもしやすかった。道がやや荒れているので、空いてて飛ばしちゃうより混んでるぐらいの方が逆に走りやすいと思った。

 

途中で止まって下を見下ろしたり、中禅寺湖方面を見上げたりしてよくわかったんだけど、いろは坂ってのはとんでもない崖を這うようにして作った道。他であんまり見かけないような超絶な崖を登るエグい道なのに、それでいて渋滞するほどの観光道路であることが信じられなかった。

 

エピローグ

例によって(?)、予定通りいろは坂を下り切る頃に日が落ちて真っ暗になり、ひたすら駅への道を下っていきました。途中の街並みとかも明るかったら趣があって面白かったのかもしれないけど、まあそれはそのうち見れるだろうし、今回はプラン外。サクッと電車に乗って帰りました。



 

 

群馬の山は気が狂うほどに赤かった - 晩秋の奥利根・奥日光ライド day1 - 2022/11/5

 

プロローグ

Stravaのフォロワーさんが走ってた群馬の一ノ倉沢と矢木沢ダムの紅葉が良さげだったので、思い切って日光と合わせて1泊2日の奥利根・奥日光ライドを計画。一ノ倉沢も日光もそのうち行こうと思って大体のルートは既に引いてあったので、2つをくっつけたらプランは完成。中間地点の片品にいい具合に宿も見つかり、かくして一ノ倉沢+紅葉+温泉+日光+大型峠クライム2つという欲張りライドプランがライド前日の夜に完成したのであった。

 

水上駅→一ノ倉沢→矢木沢ダム→坤六峠→片品(泊)→金精峠→千手ヶ浜→中禅寺湖スカイライン東武日光駅
1日目: 走行距離90km 獲得標高2100m
2日目: 走行距離100km 獲得標高1870m

 

結論だけ言うと、2日とも完全優勝。北関東の山中で酸いも甘いも舐め尽くす最高のライドになりました。

 

スタート前から既に優勝していた

スタート地点は当初上毛高原駅を予定してたけど水上駅を選択。私の貧脚からタイムを計算すると、リアルに坤六峠クライム中に日没を迎えそうだったので上毛高原から水上までの約10kmを惜しんでカット。沼田を過ぎたぐらいから車窓に見える山々が既に赤く、スタート地点に着く前から最高の1日になる予感しかしない。水上駅に着いて正面の山を見上げれば、紅葉した山が朝日に照らされて輝いていた。


一瞬と永遠

国道291号を北上し、最後のコンビニとして一部で有名なYショップ阿部商店で補給。いざ一ノ倉沢を目指す。もうずっと沿道と周囲に見える山が鮮やかな紅葉に染まっている。永遠に紅葉に囲まれながら進んでいく。

 

土合駅を過ぎると、勾配がキツくなる区間が始まり、間もなく谷川岳ロープウェイ駅に辿り着く。車やバイクが来れるのはここまでで、この先の国道291号は歩行者と自転車以外の車両は通行禁止。西の天神平まで登る谷川岳ロープウェイの山麓駅であり、谷川岳を目指す登山者の起点になる場所である。自販機はもちろん、日中なら売店や簡単な食堂も使えるので補給には困らないかな。クソ寒いのにキャラメル大福アイスみたいな雪見だいふくの变化みたいなのが美味しそうだったので食べた。

 

その先には斜度15%に迫ろうかというカーブの真ん中に車両通行禁止のゲートがあり、固く道を閉ざしている。自転車は通行OKなのでゲートの脇を通り抜けたらゲートのおじさんに「落ち葉が滑るから気を付けろ」と忠告を受ける。

 

ゲートを過ぎてから少しの間は10%を超える斜度が続く。一ノ倉沢への登りで斜度がキツいのは、土合駅過ぎて斜度が上がるポイントからゲートの先まで、トータルで1~2kmぐらい。あとは楽なので登りやすく、ひたすら紅葉の中を走るだけ。

 

ロープウェイ駅の先、車が通れない場所の景色は、これは自転車よりも歩いた方が楽しい景色かもしれない。人工音がほとんどしないし、歩いている人達もみんな紅葉の景色と山の空気をゆっくり楽しみながら歩いているので、何だか時間の流れ方がとても穏やかでゆったりに感じた。クランクを回す速度が自ずとゆっくりになり、あちこちで立ち止まる。

 

紅葉は1週間で景色が様変わりするので、今この瞬間にしかその風景は見れない。その"一瞬"が、ゆったりとした時間の流れに引き伸ばされて、永遠に感じるような、不思議な感覚を覚えた。一瞬と永遠は紙一重なんだ、と直感した。

 

絶景の一ノ倉沢は浸食と崩落の行く末

自転車が入れる道の終点、一ノ倉沢が眼前に姿を現した瞬間、その迫力に私は絶句した。


少なくとも写真で見てたのとは全然違う。高く聳える谷川岳(ほぼ崖)、その谷筋に白く見える(おそらく)石と岩、手前に近付くと"沢"は徐々になだらかになっていて、ちょうど自分が立っているあたりは木々が紅葉している。これが崖の高さの迫力に立体感を加えている。沢というより「浸食と崩落の行く末」と言った方が正確な気がする。そう考えるとこんなに恐ろしいものは無いわけで、それを見て感嘆している我々や、その崖を登ろうとする人が大勢いるんだから狂ってると思う。

 

大体デカい山は下から撮っても迫力が写らないけど、この写真と実物の差はとんでもない。紅葉と青空のおかげて最高にフォトジェニックな画にはなったけど、今撮った写真を見返してもやっぱりあの迫力と立体感は写らない。ずっと見ていたかったけど、今日はスケジュールがかなりタイトだったので、絶対にまた来よう、と誓ってその場を後にした。

 

藤原と矢木沢ダムの狂気の紅葉

湯檜曽まで戻ってから藤原方面へ登り始める。県道63号はトンネルや急勾配のスノーシェッドがあって登りにくいので、藤原ダムを迂回する峠道を登る。


ピークを過ぎて藤原の集落へ落ちていくダウンヒルの紅葉がすごい。


藤原の集落あたりはちょうど紅葉の盛りで、見える山と沿道のほぼ全てが本当に真っ赤。朽ちる寸前の燃えるような山の色にまみれて頭がおかしくなりそうだった。

 

藤原で県道63号を逸れて矢木沢ダムを目指す。まず藤原から須田貝ダムの下まで一気に標高差100mほど下って、そこからまた一気に須田貝のダム湖である胴元湖まで一気に標高差100mほどを登る。この下りと登りが短いながら斜度がキツくて地味にエグかった。そこからしばらくは湖畔に沿って緩やかなアップダウンを繰り返しながら、矢木沢ダムへ向かうだめだけに存在している道路を進む。ダムに向かうだけのどん詰まりの道路なので車は少ない。ここもずっと紅葉に囲まれながら走る。もう今日は最初からずっといつまでも永遠に紅葉。

車通りが少なくとても静かで、走ってても何km走ったのか、何分走ったのか、全然わからなくなる。短いのか長いのかよくわからないまま気が付くと右手前方に矢木沢ダムが見えてくる。最後にダムの堤体まで標高差100mほどを一気に登ると、矢木沢ダム奥利根湖に辿り着く。利根川水系最奥のダム湖は観光客もまばらで、ただひたすら静かだった。ダム湖の奥、中央分水嶺の向こう側から怪しげな雲が流れてくるのを眺めていた。


そして矢木沢ダム専用道路こと狂った紅葉ロードをそのまま藤原まで戻った。

 

苦行の坤六峠クライム

文字通りこの日最大の山場、標高1628mの坤六峠へ、距離約15km、標高差約900mの長いクライムが始まる。

 

矢木沢ダム奈良俣ダムのあたりまではポツポツとローディを見かけたし、何ならほぼ同じルートを走っている人も何人かいたんだけど、午後2時を過ぎてこれから坤六峠を越えようなどという自転車乗りはやはり皆無らしい。車も一層まばらになって、湯の小屋温泉の集落を過ぎると一気に人気が無くなった。空も雲に覆われて気温が下がり、時刻以上に暗さ・寒さを感じるようになり、文字通り孤独かつ過酷なロングクライムが始まることになる。

 

坂自体はさほど斜度がキツいわけでもなく、距離さえ短ければどうにでもなるレベルなんだけど、長いし暗いし寒いし足もほぼ売り切れでとにかくキツかった。スケジュールがタイトだったのでややオーバーペースで走ってたし、紅葉の鮮やかな色をカフェインのように摂取して走ってきたみたいなとこあったので、登るにつれ紅葉が無くなり、葉が落ちた冬山になっていくのがしんどかった。途中には紅葉がきれいと一部で有名な照葉峡(てるはきょう)というエリアを通るんだけど、標高が高いのでもうほとんど全部散っていた。

 

最終的には笹と枯れ木だけの寒々しい冬の山の景色になった。気温もグイグイ下がって、動いてないと寒い。トップ付近はガーミンの気温計で2℃とかだった。

 

それでも何とか(時刻上の)日没前に坤六峠のトップに到着。実際には南西の稜線に今沈もうとしている太陽が見えるといった感じ。トップに至るまで眺望が開けることは一切無かった。日中、晴天の下であれば雰囲気の良い楽しいクライムになったのかもしれないけど、それまでの紅葉と絶景との落差、寒さ、暗さで、ただひたすら辛い。トップも暗いし絶大な達成感だけはあったけど、とりあえず早く下りて風呂に入りたい。

 

夕闇のダウンヒルを生き抜く

坤六峠から片品までは15km以上の長いダウンヒル。先週走った尾瀬御池以上に暗い中での長いダウンヒルになった。ピークの時点で先週より遥かに周囲が暗く、写真映えするような場所でもなかったので、早々に真冬のダウンヒル装備を整えて下り始めた。もうこういうのやめたいと思いつつ、それでも絶景があると止まってしまう。

 

こちらはほぼ暗闇と化した恐怖のダウンヒルロード。

 

標高1000m前後だったろうか。戸倉に着く前、ほぼ真っ暗になる頃に周囲が真っ赤に紅葉してるのに気付いた。明るいうちに通りたかった。もはや立ち止まって見る余裕もなかったのでスルー。それでも「うわ、めっちゃ綺麗やん!写真撮りてー!いや、こんな暗いと何も写らねえか!がはは!」とかぶつぶつ言いながらのダウンヒルもなかなか楽しかった。

 

終わってみれば15kmも下ったらのかよくわからないぐらいあっという間で、完全に日が落ちた頃に片品の村に到着。それでも時刻は17時半頃だった。このダウンヒルは道が本当に綺麗だったのに救われた。薄暮の明るさと400lmのよわよわライトでもそれなりのスピードで下れたのは路面のおかげ。

 

本当に日が落ちる前にちゃんとゴールに着いた方がいいですよ。遅くとも数字上に日没時刻にはゴールすべき。

奥只見紅葉ライド day3 - 2022/10/29

雲が垂れ込める越後山脈

 

3日目は天気が良くて脚が使い物になれば行きたいところがあったんですが、天気は悪いし脚も使い物にならない。雲が立ち込める魚沼盆地をゆるゆると流して午前中で切り上げました。

浦佐→越後湯沢

走行距離約33km、獲得標高約350m

 

低い雲が垂れ込める幻想的な魚沼盆地

魚野川から浦佐駅を望む。背後の低山に不思議な形の雲が立ち込めている。いや、これはどちらかと言うと霧か。

 

北に目を向けるとわずかに雲が切れて青空も見えていたりする。これも盆地特有の不思議な天気なのだろうか。

 

農道を北に向かって走り始めると薄っすらと虹が見えた。この後小雨が降り出した。


低い雲が越後山脈の山々を覆い隠していた。快晴ならくっきりと八海山をはじめ越後山脈の山々がきれいに見えただろうけど、これはこれで神秘的・幻想的で良い。脚も動かないし全身が疲れきっているので、だらだらと進んでは停まって幻想的な風景に見とれていた。路面も終始ウェットだったし、明らかに本格的なヒルクライムをやるべき状態ではなかった。

 

時間とともに霧が晴れるようにして、盆地の中心である六日町と、西の魚沼丘陵側の山にかかっていた雲が少し晴れてきたけど、盆地の北端である塩沢を過ぎて湯沢方面に登り始めると頭上には再び雲がかかった。時折小雨もぱらつく。2日間、秘境の絶景に興奮し熱狂した私の心身を静かにクールダウンさせるような天気と景色だった。


午前10時半頃にはフジロックシャトルバス乗り場でお馴染みの越後湯沢駅東口に到着。心静かに、3日間にわたったライドを終えた。